日本政策金融公庫、宮崎県他多数の団体の主催で、「みやざきソーシャルビジネスセミナー」が開催された。講師は福岡県の株式会社フラウ、代表取締役 濱砂圭子氏。1993年福岡で初めての地域密着型子育て応援情報誌「子づれDE・CHA・CHA・CHA!」を発刊。コミュニティービジネスの草分け的存在である。以前、この情報誌のことを新聞で見た際、ぜひお会いしたいと考えていたが、今回念願叶って濱砂氏とお話をする機会も得た。講演の概要を紹介します。
主婦力を活かす
当時、子育て中の主婦が何か新しいことを始めようとすると、社会的な抵抗があった。これまで世の中になりものは、信じてもらえない。熱い気持ちだけでは押し切れない状況だった。だから、活動をして記事に取り上げてもらい、自らの存在証明として活用した。
主婦は人材の宝庫である。料理などで培った同時処理能力、買い物や近所づきあいなどで得た瞬間マーケティングや観察眼など、地域の情報を知っている点など、これらの能力を生かさないのは日本の損出であるとのこと。そして、主婦たちがお互いのことを補足してビジネスに生かしてきた。地域密着型子育て応援情報誌「子づれDE・CHA・CHA・CHA!」の発行は、その体験から生まれたもので、社会に新しい価値をつくりだそう。正義をビジネスに、理念を利益に!との思いから、続く全国マミーズサミットを開催し、成功させた。
ビジネスの種
ビジネスのネタは、みんなが諦めているもの、社会の不条理、不満、不便、不足、不自由なもの。特にこの国は男性がデザインしているため、女性の目線や視点はビジネスチャンスになり得ると考えている。また常に5年先を見据えて思考することが大切。
具体例としては、10万部発行している小学生新聞のこと。学力が低いとイライラしている親は子どものために何とかしなければならないという思い、親自身の問題やこどものしつけ、自分の子どもしか見えないという親達や地域を刺激したいという考えスタートした。その過程で、子どもを見守ることは、子どもに見守られていること。困っていることを組み合わせる。子どもたちの環境への意識の向上、主婦という人材を労働力として活用することで、料金以上のことをしてくれること、地域の取材する中で、地域の困りごとへの活動が仕事になるということを学んだ。
事例として、子育てタクシー※の例が挙げられる。タクシーが変われば子育てが変わるとのテーマのもと、タクシー会社、利用者、支援団体がWIN-WINの関係となるよう活動した。ではどこに支援者側の収益が発生するかというと、タクシー会社向けに、お困りごとをタクシーで解決できるよう教育すること仕組みをつくった。その教育費が支援団体の収益となっている。
また「転勤族ウェルカムパーティ」イベントでは、新しく福岡に来た転勤族は、これまでの生活圏での情報がリセットされるので、地元のママと転勤してきたママの出会いをつくっているとのこと。それまでだったら、ボランティア。しかし、転勤族に必要な生活用品などを販売している企業のブースを設け、出店料をいただくことでビジネスに変わる。ここでもお困りごとを解決して、収益を上げる仕組みをつくった。
社会を主婦視点で見る
濱砂氏より、現代社会を経済効率優先社会と捉えていると話してくれた。そのため、労働環境では、非正規社員の増加など労働収入格差やサービス残業、人手不足を生み。地域社会では、こどもの不登校やいじめ、介護などの問題が山積している。特に介護問題で従業員が離職することになれば会社の損失となるなど、身近な問題である。しかし視点を変えてみると、これまでの例のように地域には余っているものがあると感じており、それらの問題を余っている何かと組み合わせることや、コーディネートすることで問題が解決できるかもしれない。社会を冷静に客観的に俯瞰し、事業化へのプロセスを理解すること、それがコミュニティビジネスを志す人には求められる。その全体像を図にまとめたみた。
事業化するには
まず事業をするにあたり、時代が求めるキーワードを掴むマーケティング力、その事業の経験やスキル、ネットワークがあるか。事業化へ向け新しいものを生み出す商品開発。新聞など公的に存在証明を示す資料などもとに、成果を数字で語れること、数字で検証できること。その後ネットワークを利用して関連団体や業界を書き込むこと。お金が落ちる仕組みをつくるコーディネート力や社会へ向けアピールする力が求められる。
そのためには、知っている人だけと付き合わないこと。多くの人と出会う、社会に出ていろんな人を知っておかなければならない。それがさまざまなチャンスを生かすことに繋がる。大きくいうと国境を越える発想。自分から近づいていくこと、その人にあるチャンスをつくる。こんなことをやりたいと交渉していくこと、売り込みにいくこと。
コミュニティービジネスは、売り手、買い手、社会が三方よしの考え方。ボランティアと違い事業として成り立たせるには、自分が働いたことに対価をいただくこと、自分の時給はいくらか。時給を換算する、自分の原価計算をすることが大切である。
コミュニティビジネスの課題
コミュニティビジネスの課題は、2つある。ひとつは「総合的な経営力」。商品開発、品質管理、人材育成、コミュニケーションなどセンスが求められる。ふたつめは、「経営スキルの厳しさ」。会計、税務、資金、借入金、法務、マネジメント。特に注意が必要なものは、法規を学ぶことで、許認可が必要なものを理解しておく。
始めの一歩
まず、始めの一歩は、何でも書くこと。夢は、しゃべると消える。書かないとダメ。そして夢を実現するには資源を探すこと。そしてプロになること。プロとは期待値以上の納品ができることだ。
本セミナーでは、さまざまなビジネスシーンにおいて、その可能性を想像していく大切さを学んだ
※子育てタクシーとは
タクシーが保育園に子どもを迎えに行く場合、親が事前に保育園に運転手の名前を伝え、運転手も保育園で身分証を示すなどの配慮をしている。小さい子ども連れの母親は、ベビーカーなどの荷物が多く、地下鉄やバスでは負担が重い。タクシーなら家の前まで送迎できるのに、子ども連れを嫌がる運転手が多かったことが設立のきっかけだった。(朝日新聞掲載「キーワード」の解説より一部転載。